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もう一度同じ景色を見たかった。#9. めざまし電話

#9. めざまし電話

1997.2.14(金)

 近畿地方では経験できないほどの積雪だった。
 
 テレビでは兵庫県全般を含む近畿地方の大半で
 大雪警報が発令していることを報じていた。

 生徒手帳を確認して、学校が休みであることに満足して

 もう一度寝ることにしたときだった。

 家の電話が、それでも仕事に行った両親と姉、

 実家を離れた兄貴に置き去りにされて

 ただ一人で鳴り響いていた。

 こんな時にかかってくる電話なんてろくなものではないと思いながら

 学校からの何かしらの連絡かもしれないと仕方なくでることにした。

 「ちょっとーー!!!どうすんのよ!!」

 聞き覚えしかない声なのだが、眠ることを決意した男子高校生には

 心臓が止まりそうなほどの大爆音に聞こえた。

 「用意したのよ。一生懸命あなたのためのチョコレートを準備したの。」

 「・・・ああ・・ああ。そうか。バレンタイン?」

 「え??なに?その反応は。その感じは。晋二くんの顔より大きいチョコよ!」

 「え?!そんなデカイの?」

 「嫌なの?!!?」

 「そうじゃないけど。」

 「これを、学校で、できるだけ人が見ている所で、渡したかったのよ。私は!」

 あまりの音量の大きさに、知らない間に受話器から耳を話している自分が居た。

 「明日、明日でも大丈夫でしょ?今日は外にでられないんだから。」

 「嫌よ。絶対嫌。」

 静かな言葉に、嫌な予感しなかった。

 「今から渡したいわ。」

 「いや、無理だよ。大雪警報だよ。」

 「これを渡して、私はやっと自分になれるの。」

 「大丈夫だよ。由夏はもう立派な由夏だよ。心配しないで良い。」

 「取りに来て。お願い。取りに来て。」

 「え????俺んち山の上の方なんだよ。」

 『知っているわ。だから今日はツツーっと滑ればあっという間に平野駅に到着するでしょう。」

 「・・・何を言っているの??」

 「では・・・残念だけどここでお別れね。グスッ・・・」

 「あー!わかった!どこに行けばいいの!!」

 「川西能勢口駅に1時間後に集合。その後のことは任せるわ。」

 朝、7:43

 完全に目が覚めた。

 後の事は任せるってなんだ?能勢口の先も結構な雪なんじゃないのか?

 無茶なことを言って今頃ニヤニヤしているであろう由夏を思い浮かべて、

 仕返しの手段を考えながら待ち合わせの川西能勢口駅に向かった。

 家を出ると脛(すね)の真ん中辺りまで積もった雪をかき分けながら

 道路に出ると、今度は道路が一面凍結していた。

 「最悪じゃないか・・・・」

 川西市兵庫県にあり、兵庫県は西日本にある。

 しかし、川西市を少し北に登ると、北陸地方のような気候の地域がある。

 ただ、雪は降るのだが、冬場は毎日・・・と言うほどでは無いので、

 大雪への対策は万全とは言い難い。

 下り坂だけの駅までの道のりで、コケテいる人を見ながら自分もコケテ、

 それを見ている人もまたコケル。そんなマトリョーシカが繰り広げられる。

 どうにかこうにか到着した平野駅の歩道橋から見下ろすと

 線路の側を走る県道13号線、通称「産業道路」に車の走らない珍しい光景があった。

 無人の駅の自動券売機で切符を買・・・う前に、

 一応インターホンを押すことにした。

 マイクを通して用件を聞かれたので、電車は走っているのかと聞いたところ

 残念ながら、時刻表通りの運転をしているとの回答だった。

 《デンシャハシッテル。ユカ》

 「知ってるよ・・・」

 ポケットベルをにらむ自分が悲しかったけど、

 8分後に到着したクリーム色の電車に乗って、

 鬼が島・・・いや約束の川西能勢口駅に向かった。

 能勢の山奥、妙見口駅からゆっくりゆっくり南下して、

 一つ目の住宅街「ときわ台」「光風台」。

 妙見山の周辺地区は古くからあるものの、このあたりの住宅街が

 川西の中で一番新しく開発されたのではなかろうか。

 そもそも川西市とは大阪から見ても、兵庫の都会である神戸や宝塚から見ても

 どっからどう見ても山の中の村で、一番の売りは

 「空気が旨い」

 ・・・これだけは言ってはいけないことになっている。

 山下駅からさらに南下するのだが、そこから「日生中央」への分岐がある。

 日生中央駅が出来るとき、「川西の北部に阪急オアシスができる!」

 という宣伝文句がでかでかと能勢電の中吊りに出ていたのだが、

 すでに川西に住んでいる人に宣伝してどうすんだ?と子供心に思ったものだった。

 山下駅から畦野、一の鳥居、平野までは山の中を走る電車で、

 山を切り開いた住宅街からのアクセスポイント。

 そこを越えると多田駅で、ここから先は猪名川に並走するように電車が走る。

 多田源氏発祥の地。1192作ろう鎌倉幕府源頼朝・・のお爺さんが祭られていると噂の多田神社がある。

 鼓が滝、鶯の森、滝山、絹延橋。全て電車の駅の名前だけど、

 見方を少し変えれば、ロールプレイングゲーム的な世界観も感じられる。

 その日は、川西ファンタジーエストのワールドマップは全面雪で覆われていたので

 川西能勢口駅にもあまり人はいなかった。

 「お待ちしておりました。勇者、晋二様」

 とは言わなかったが、改札を出た所に、何やら大きなリュックから

 真っ赤な包装紙がはみ出して見えている女性に声をかけられた。

 「さて。どこに行きましょうか。」

 さらりと言ってのけて、してやったりの由夏に

 なんとか一泡吹かせてやろうと

 僕は後でとんでもない後悔をする一言を発した。

 「箕面の滝を見に行こう。」

 極寒の気候の中、大雪で前も見にくいであろう箕面の山道を歩くことの提案。

 大雪警報の町を見ながら、彼女が少しでも怖気づいてくれればと祈ったが

 振り向くと、そこに満面の笑みの由夏がいた。

 「何?どこそれ?早く行きましょう!」

 いや、やっぱりやめよう。

 そう言ったつもりだったが、何か呪文をかけられていたのだろうか。

 僕の言葉はかき消された。

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雪の箕面の滝道 

 次回 #10 「箕面の滝~でっちようかんとコーヒーと時々もみじまんじゅう」
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